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金木犀-min.png

10月のある日、外を歩いていると突然に金木犀の香りがした。

香りの出処を探すのだがなかなか見つからない。

その時ある秋の日のことを思い出した。

テーマパーク(遊園地)に行った日のことだ。朝が早かった。

早起き面倒だなぁ、と思っても到着してしまえばそんなことも忘れてしまう。

右から周るか、左から周るか、それともまっすぐ行くか。

アトラクションのために列に並び、パレードの写真を撮った。

お昼はピザを食べた。すこし足りなかったのでポップコーンを食べ歩きした。

ちょっと疲れて座ったベンチには野鳥が集まり、

歩き方がぴょこぴょこしていて面白くて笑った。

 

少し肌寒くなってくる刻、日が暮れる。

学校の話をしながら歩いた。

仕事の話をしながら歩いた。

好きな人の話をしながら歩いた。

人生を語り合い、手を繋いだ。

面倒だった早起きの日は、忘れられない日になった。

夜のパレードが始まった。

目の前を無限の輝きが通り過ぎる。

後ろからは希望の風が私の心を前へ吹き飛ばし、

横には100の夢が同じ景色を目撃している。

 

「こんなこと、ありえない」

 

パレードは好き放題に夢を撒き散らし、

私の混乱に手を振って夜の風の中に消えた。

今喋ってしまうと頬が濡れてしまう。

私は皆の流れに沿って静かに歩く。

そろそろ閉園だ、家へ帰ろう。

大きなアーチ状の門をくぐり、ジョージガーシュインの

『ラプソディー・イン・ブルー』のような音楽が流れるエントランス、

その雑踏の中に私はふと立ち止まる。 そして名残惜しく後ろを振り返った。

 

朝見た景色が眠っている。

その瞬間全ての音がザーーっとひとつになった。

1日の出来事が脳内で爆発する。

5秒間だったが、多幸感の中で全てが消えた。

 

結局、金木犀の花を見つけることはできなかった。

確かにそこにあるはずなのに、

金木犀の香りは残響を残し、朧げに消えていった。

残響とは、発音体の振動が止み、取り残された音像だ。

手を伸ばしても届かず、捕まえられない。

そして消える。

全てのものは形を失い、 残響になる。

私は、これを形にしてみたくなった。

少し肌寒い10月の日だった。

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